赤と青のえんぴつ

分野にこだわらず、気になったことについて机上の空論を繰り広げたい。

ニコ生の凸待ちの思い出、そして恐怖

 インターネットは非常に便利なものです。しかし、最近では誹謗中傷があーだこーだ、Vtuberオタクにお気持ち表明する記事があーだこーだと、コミュニケーションにおける問題がやたらと議論されています。

 しかし、インターネットの文化が発展する中で、掲示板、チャット、配信、SNS…と、コミュニケーション手段の隆盛が途絶えることは一度もありませんでした。それほど、「他者との交流」というものが、多くの人々の欲するものなのでしょう。

 

 私にも、「他者との交流」にどっぷりと浸かっていた時期がありました。”ニコニコ生放送”です。

 

 2011年、姉が見ていたニコニコ動画を見ていて次第にハマった流れでニコニコ生放送も見るようになり、そうしてついに私自身も生放送を始めました。

 

 とはいえ、当時中学生の私には自分のパソコンは無く、1階の居間にある家族共用のパソコンだけがインターネットと関われる唯一の手段でした。生放送するとすれば、休日親が日中出かけている時か、親が寝静まった真夜中にしかできません。

 鬼の居ぬ間に洗濯かのようにびくびくタイミングを伺いながらで、しかも、そもそも自分に配信できるようなコンテンツもなかったため、放送自体はあまりできませんでした。生放送やっても、現実の友達ぐらいしか来なかったですし。

 

 そこで自分がハマったのが凸待ち配信(配信者がリスナーと電話する配信)です。Skypeは元々インストールしていましたし、タイミングを伺ってやりたい時に凸することが可能です。

 せっかく交流を図って、配信してもしばしば空振りに終わっていた私にとって、目の前の配信者と確実に交流できる凸というのは魅力的でした。背伸びしたいお年頃で、年上の人とのお話できるというのにも惹かれたのかもしれません。

 

 初めて凸をした時、リコーダーを吹いたら、放送の音声を切るのを忘れて死ぬほどハウリングさせて、生主を怒らせるというありがちなミスもしましたが、次第に凸することにも慣れていきました。

 中学生の大してコミュニケーション能力もないガキが何を話していたのかは覚えていませんが、中学生という若さにある程度は興味を持ってくれたのか、高校生や20代30代の人にも良くしてもらいました。話し込みすぎて、何十分も話してしまうこともしばしばでした。

 真夜中に電話をしていると時々2階で寝ている親がトイレに起きることもあり、ひやひやしながら電話をしていましたが、それもまたスリルがあって楽しかったです。

 

 ある日、仲良くしていた生主に「マイク買ってみたら?」と言われました。マイクはノートPC内蔵のマイクでやっていたため、確かに音質はよくありませんでした。

 さっそく家電量販店に行き、マイク付きのヘッドフォンを思い切って買いました。中学生だったので、安物ではありましたが、それでも思い切った買い物でした。

 

 これまで安物のイヤホンと内臓マイクでやっていたので、ヘッドフォンのそれっぽさにも感動しつつも、夜中に満を持して凸をしました。

 「マイク変えたんですよー」とかいつも通りの楽しい会話をしていました。

 

 

 

「…赤と青?なにやってるの…?」

 

 ビクッと、私は後ろを振り返りました。背後には、不審者を見るような目の母親が居ました。画面にはどう考えても同級生ではない顔出し女生主(20代)がどうしたのだろう、という感じで見ています。

 ヘッドフォンの密閉性のために、私の親フラセンサーが鈍っていたのか……

 

「いつもいつも夜中何やってんの?もう遅いんだから早く寝なさい」

 

 あ、前からバレてたみたいです。その後何をして何を喋ったか、もう覚えていません。思い出したくもありません。

 

 

 次の日の朝、あれだけ楽しんでいたネット上での「他者との交流」が、現実世界での恐怖の「親との交流」に化けました。

 

「一階に下りたら、赤と青がパソコンに向かって夜中に一人で話していて…、頭おかしくなったのかって怖くなった。何かパソコンに知らない女の人口パクパクしているのが映ってたし」

 

 正直弁解しようとしたとして、親は機械に疎く、パソコンのSkype通話も、ニコニコ生放送という配信も、そして「凸待ち」という文化も一から説明するのは無理があります。何より、知らない20代の女性などと夜中に通話していたのは事実です。

 

 

「こんなことしてたら、赤と青がおかしくなる。パソコンはもう使わせない。」

 

 

 私は全てをあきらめました。

 

 

 数日後の土曜、親が出かけました。家には私一人。居間のパソコンは隠されてしまいました。必死の大捜索が始まりました。あれほど必死に探したものもないかもしれません。

 

 そしてついに、押し入れの布団の間に隠されたパソコンを見つけました。やった!!

 

 

と思うと同時に虚しさが襲ってきました。

 

「俺、なにやってんだろ……」

 

 

自らのネット依存が恐ろしくなった出来事でした。