赤と青のえんぴつ

分野にこだわらず、気になったことについて机上の空論を繰り広げたい。

中学のお昼の放送と、表現規制の果てにあるもの

 学校の昼食の時間といえば、「お昼の放送」っていうのがあったと思います。私の中学校では、お昼の放送に新任の先生にインタビューしたり、学校の行事を紹介したりしていました。しかし、「お昼の放送」で一番あるあるな企画といえば、曲リクエストではないでしょうか?

 私の中学校も、好きな曲を放送委員にリクエストをし、採用されると放送委員にCDを渡して、お昼の放送でかけてもらう、というのをやっていました。

 

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昼の放送

 しかし、冷静になって考えてみてください。この手法、めんどくさくないですか?

 当時はまだまだCD全盛期だったので、CDは家にあったとはいえ、わざわざ放送委員にリクエストして、CDを家から持ってきて、行われることは、昼に曲が流れるだけです。

 自分で曲を聴きたいなら家で聴けばいいだけですし、労力の割にメリットがあるかといわれると……


 すると、どうなるかというと、この曲リクエストをわざわざやる人は、「相当な熱意のある人」しかいないわけなのです。早い話がオタクぐらいしかリクエストしない状況になってしまいました。

 

 当時はニコニコ円熟期。オタクたちはこぞって、こてこてのアニソンや、歌い手のボカロカバーをリクエストしてきました。

 もちろん私もオタクでしたが、斜に構えるタイプのオタクだったので、こういうことをするオタクを「うわぁ…痛々しいからやめとけよ…」とか同族嫌悪する側のオタクでした。

 私が初めてサンホラに出会ったのはこの曲リクエスト企画だったのですが、お昼の和やかな時間に突如、独特な世界観から発せられる語りが放送スピーカーから流れた時には、クラスの多くが騒然としていたのを覚えています。

 

 まあ、ただ文化が違う、というだけなら、まだ各人が受け入れる受け入れないという話なので問題はありません。しかし、当時のボカロ曲などは結構刺激的なものも多く、性描写が入っている曲、グロテスクな曲などもあり、食事の場にはちょっと適さない…ということもありました。

 

 そんなこともあり、ある日の生徒議会(生徒会と学級代表と委員会の代表の話し合い)に、「アニソンのリクエストを禁止する」という議題が取り上げられたのです。ちょうど私は学級代表で生徒議会に参加していました。

 この議会は本当に熾烈でした。別の学級代表に、リクエストするタイプのオタクが居たのです。苦情を抑えるため何とか流さないようにしたい非オタクの放送委員長と曲を流す自由を守りたいオタクの学級代表。この論争はさながら表現規制をめぐる代理戦争のようでした。

 

 議会はやることの多い年度末並みに時間が長引き、正直さっさと終わってほしい…、と私が思っていると、後ろで見ていた先生も耐えかねたのか議会に介入してきました。

 ずいぶん前のことなので、どうやって双方を丸め込めたのか、正直覚えてはいないのですが、アニソン全面禁止はしないが、何かしらの基準を設ける、みたいな形で幕を下ろしたと思います。

 

 これで一件落着……かのように思えたのですが、ただでさえめんどくさい曲リクエスト制度に、さらに曲の基準が設けられたことで、さらにリクエストのハードルが上がり、これまで曲をリクエストしていたオタクたちもリクエストをだんだんとやめ、ますますリクエストが減っていってしまったのです。

 

 よほど熱心なファンがいたのか、リクエストが来なかった穴埋めに放送委員のCDを使いまわしたのかは、知りませんが、なぜかその結果、平井堅の曲がやたらと流される事態になりました。

 それでも『POP STAR』のような明るめの曲ならまだよかったのですが、なぜか頻繁に流れていたのが『告白』という結構暗めの曲で、お昼時に「今日も流れるのか…」と気分が重くなりました……

 

 

 こうすればよかったとか、誰が悪かったとか、そういう結論めいたことを言うつもりはありませんが、未だに『告白』のサビだけは頭から離れないことだけは事実です。

 


平井堅 『告白』