赤と青のえんぴつ

分野にこだわらず、気になったことについて机上の空論を繰り広げたい。

定数分離と極値と論理の接着について

生徒からの質問でなんとなく気になった問題があったので書き残します。

関数f(x)=ax+cosx+ 1/2 sin2xが極値を持たないようになる定数aの範囲を求めよ。

問題内容はさして難しくない問題なのですが…とりあえず解いていきます。

 前半部分は解答なので、とっくにそんなのわかってるわ、って人は「この問題を1から説明できるか?」まで飛んでください。

極値を持たない条件は?

 極値を持たないということはf '(x)=0を満たすxが存在しない時だ!となるのは一部間違いですね。例えば、y=x^3は、y'=3x^2でx=0の時、y’=0ですが下図のように極値は存在しません。

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f '(x)=0を満たすxの値の前後でf '(x)の正負が逆転しないのも極値を持たない条件です。

 

・f '(x)について調べる

 f '(x)=a-sinx+cos2x です。話の中心はf '(x)=0なので、これは定数分離が使えるだろう、ということになります。

   f '(x)=0の時、sinx-cos2x=a

 y=sinx-cos2x…①とy=a…②の交点を求めれば解が存在するか、つまりf '(x)=0を満たすxが存在するかがわかります。y=aは、x軸に平行なグラフで定数aの値によって上下します。aの値を変えてy=aのグラフを動かした時の、y=sinx-cos2xの交点を調べればいい、というのが定数分離です。

 じゃあ①のグラフを描こうとすると、y'=cosx+2sin2xとなって、xの値を求めようとしてもどうしようもないのでアプローチを変えます。

   ① y=sinx-cos2x=sinx-(1-2(sinx)^2)=2(sinx)^2+sinx-1

 sinx=tと置けばyとtの関数にできますね。
   ① y=2t^2 + t -1=2(t+1/4)^2-9/8

 t、つまりsinxの範囲は-1≦t≦1です。これらの情報からグラフが描けます。

 

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 赤線のようにy=aのグラフを動かしていると、y=2t^2 + t -1 と y=aは、-9/8≦a≦2で交わることがわかります。

 ここで、f '(x)≠0が極値を持たない条件だ!と考えていると答えをa<-9/8、2<aと間違えてしまいます。答えはa≦-9/8、2≦aです。

  では、どうして等号が付くのかをきちんと説明できますか?

 

・f '(x)の正負

 a=-9/8、2の時、y=2t^2 + t -1 と y=aの交点が存在します。にもかかわらず極値が存在するのは、f '(x)=0となるxの前後でf '(x)の正負が逆転しないということです。それはもちろんそうなのですが、上記のグラフからそうだと説明できるかが問題なのです。

 そもそもy=aのグラフをなんで設けたのでしょうか?f '(x)=0の時、sinx-cos2x=aというのを利用したからでしたね。つまり、f '(x)>0の時、sinx-cos2x<aです。あるx座標において、y=aの下にy=2t^2 + t -1がある時にはf '(x)>0、反対に上にある時にはf '(x)<0です。

 

・sinx = tだから・・・

 では、f '(x)=0となるxの前後でf '(x)の正負が逆転しないかを考えましょう。おそらくa=-9/8の時は視覚的にもわかりやすいのではないでしょうか。接点のt座標の前後はどちらもy=aよりも上にあります。つまり、a=-9/8の時、常にf '(x)≦0です。しかしa=2の時の交点は途切れています。どう考えますか?

 そもそもt=sinxです。xが変化するのにともなってtも変化します。xが増加すると、sinxは単位円を想像すると最初は0から増加し、1になったら減少して0、-1となり、-1からまた増加して0、1となり、1になったら減少して…となります。つまり-1と1の間を行ったり来たりしているわけです。

 

 

 

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 よって、グラフの端に行ったら折り返すのです。ということは、交点の前後のx座標でもグラフはy=aの下にあるので、a=2の時、常にf '(x)≧0となります。

 ただ、ここまで言わなくても、グラフの全体がa=-9/8の時にはy≧a、a=2の時にはy≦aの範囲にあるから、といえば済む話なんですけどね。

 

・この問題を1から説明できるか?

 この問題は典型的な問題なのでここまで考えずに、作業的に解けるという人も少なくないでしょう。しかし、この流れを理解できるかどうかが数学のできるできないを大きく分けているような気がします。記述でここまで書かずとも得点は取れると思いますが、例えば上記で使った公式を学びたての人に定数分離や極値の有無の判定などを深く説明できるか、と言われると全員ができるとは言えないと思います。正直この文章だけでも説明不足だと思います。そもそも、定数分離を学ばずに数Ⅲ習っているってどういう数学の遍歴たどっているんだ、という話なのですが。

 「今回の問題は、極値を考えるために微分した。次に、f '(x)=0が存在するか、したとしてその前後で正負が逆転しないかを調べるために定数分離をした。さらに、グラフに書くためにsinxを一つの文字として置き換えて二次関数の式にした。」すごくざっくり説明するとそんな流れです。

 先程の例は極端ですが、一連の流れをきちんと順序立てて説明できるかが重要です。今回の問題は定数分離やsinxからtへの文字の置き換えで状況が変わるため、流れを追いづらいのです。定数分離をして何がしたかったのか、tってxにどう関係するのかを見失ってしまうと説明できません。

 

・『論理の接着』が重要

 数学が伸び悩んでいる人に「解説をみればそりゃそうだよね、ってわかるんだけど、自分で解答を書くことができない」って人が自分の周りでは割といます。そういう人は一連の流れをきちんと順序立てて説明することが上手くできていないのだと思います。

 今回の問題はそれぞれの操作は教科書に載っている簡単な操作です。しかし、それが説明できない、ということはその操作と操作の間の『論理の接着』を上手く理解できていない、ということになります。解説を見れば、簡単な操作しかやっておらず、それぞれの操作は理解できます。そして、その間の論理は解説が補完してくれます。理解に難くないのです。そりゃそうだよね、ってなるのです。

 おそらく大学入試で求めているのは、この『論理の接着』だと考えます。数学なんて必要ない、という人はたくさんいますが、この『論理の接着』ができるかを測るにはうってつけだと思います。理科もその傾向はあるかもしれませんが、理科は概念の理解という点にも重点を置いているので、純粋に『論理の接着』を調べるために数学があるのだと思います。

 わかりやすい指針として例をあげると、『論理の接着』が苦手な人は、センター数学の数列が苦手です。センター数学の数列は、複雑な数列を教科書レベルの操作を使って一般項やその数列の和を求めていく流れを穴埋め形式で求めていく、というのが一般的です。まさに操作と操作の間の『論理の接着』を求めているんですよね。これ、数学が得意な人は「誘導がめっちゃあるから難しくない」って言いますし、できない人は「ここの操作にいたった理由がよくわからない」って言います。差が出るところです。

 じゃあ、この『論理の接着』を会得するにはどうしたらいいんだ、ってなりますよね。これがなかなか難しい。一番いいのは身近にいる数学のできる人に話を聞くことなんじゃないかな、って思います。これは口頭で聞くのが一番です。文章では『論理の接着』がないがしろにされて、「え?こんなの当たり前ですけど?」みたいな感じのことが多いです。口頭で聞く際には、その操作と操作の間の『論理の接着』をどうして思いついたのかをつっこんで聞いてみるといいです。

 身近にいる数学のできる人といえば数学の先生です。授業聞いていても意味ない、だって教科書に書いてんじゃん、という人がいます。確かに公式を知るという点では要りません。ぶっちゃけそこらへんは重要じゃないです。最初は公式集みたいなの見ながら解いていればいいのです、公式は使っているうちにそのうち覚えますから。大事なのは教科書に書かれている変化がどういう『論理の接着』で至ったのかを聞くことです。これは口頭でしか聞けないので。その『論理の接着』を自分のものにするように、それができなかったとしても「こういう変化があるんだ~」と頭の片隅に置いておいて、『論理の接着』の材料にできるようにすることが数学の上達法なのではないかと考えます。